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大庭 孝文
TAKAFUMI OHBA

フォールスメモリー:山頂からの眺望

2024

h606 w910 d21

木製パネルにアルミニウム、アクリル絵具、岩絵具、膠、合成接着剤、突板、和紙

作品は「記憶すること」「忘却すること」という、人間が持っている認知構造について言及しています。人間の記憶は、科学の世界では非常に曖昧なものとして定義されています。自分では事実として脳内に保管していると思っている記憶でも、月日とともに都合の良いように改変や忘却をしたり、別の出来事と混合したりと、無意識下で様々な操作が施されています。このような認知心理学から考える「記憶の過程」を軸に、 現実と記憶との関係性を表現しています。

私の絵画は、表層は単純に見えますが、多層的な工程を経て成り立っています。一枚の写真を基に、ペンによるドローイング、岩絵具を用いたペインティング、画像編集ソフトによる写真加工といった、異なる複数の方法で「描く」と「消す」を繰り返し行い、残った痕跡を合成した物を作品としています。「描く」と「消す」あるいは「描き直す」という作業の反復は、記憶が上書きされ事実から歪曲していく様子と似た性質を持っています。作品のベースには人物や風景が写った普遍的な写真がありますが、最終的に仕上がった作品からは、おそらくそれは想像ができません。記憶はそれほどに様子が変わってしまう物である事を表しています。長いプロセスの中で、一つのイメージに幾度も介入することで別の姿に図像が結ばれていく様子は、私たちが持っている、世界を認識する際のメカニズムを描いているようにも感じています。

近作のシリーズタイトルである《正しい風景》は、その言葉の前に括弧つきで、「自分にとっての」という言葉が入ります。あくまでも作者である私にとっての正しさであり、そうした正しさは人の数だけ存在します。繰り返しになりますが、記憶というのは美化をともないます。捉えた事柄、経験を上書きし、修正し、部分的には削除する。それは事実とは呼べず、一種のフィクションのようなものです。認知心理学では、作り出された架空の記憶を「フォールスメモリー(過誤記憶・虚偽記憶)」という言葉で定義づけています。ありもしない出来事をあたかも事実として無自覚に認識してしまうのです。

内的要因、外的要因、様々なケースがあるものの、精神の安定を保つための自己防衛本能の一種として、それらが起こると考えられています。例え変容された記憶であっても、自分にとっては正しさを帯びており、また愛着が生じている思い出でもあるため、一概に悪い物として扱えません。良し悪しの判断ではなく、むしろ私たちが持っているそうした機能を理解する方が、有意義ではないかと思っています。

社会とは個人の集まりです。それぞれの思想が集う事で、社会の「正しい」は形成されています。変容していく、或いは誰かが扇動的に変容させている社会について、私は作品を通して考察を続けています。

大庭 孝文

1988 大阪府生まれ
2013 広島市立大学芸術学部美術学科日本画専攻 卒業
2015 公益財団法人佐藤国際文化育英財団 第25期奨学生
2018 広島市立大学大学院博士後期課程芸術学研究科総合造形芸術専攻 単位取得満期退学

個展
2024 再生/再構成されたエピソード(LE METTE GALLERY/広島)
2022 日々の光景(Cafe and Gallery 鐘や - K gallery/島根)
2022 ダイニングルーム(ラピスギャラリー/広島)
2022 ある家の過誤記憶(GALLERY RYO/東京)
2020 符号化された景色(ラピスギャラリー/広島)
2019 新世代への視点2019 大庭孝文展(ギャラリーなつか/東京)

グループ展
2024
 ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 6 メニスル(トーキョーアーツアンドスペース本郷/東京)
2023
 Art lounge project #2(LE METTÉ Adeline/岡山)

2022
 知覚する風景(Cafe and Gallery 鐘や/島根)
 WHAT CAFE EXHIBITION -MA(間)-(WHAT CAFE/東京)
 biscuit gallery group exhibition 「re」(biscuit gallery/東京)
 特別Gセレクション 新春ニホンガ展覧会(ギャラリーG/広島)

2021
 第48回 創画展(東京都美術館)
 第21回 芸美会(福屋八丁堀本店/広島)
 アートフェア アジア福岡 2021(博多阪急/福岡)
 広島市立大学日本画研究室展(八千代の丘美術館/広島)
 WHAT is Art ? (WHAT CAFE/東京)
 一朶の会(いちだのかい)(ギャラリー和田/東京)
 第47回東京春季創画展(西武池袋本店 別館2階 西武ギャラリー/東京)
 特別Gセレクション 新春ニホンガ展覧会(ギャラリーG/広島)
2020
 Rich Seasons - Ⅲ(オリエアート・ギャラリー/東京)
 第47回 創画展(東京都美術館・京都市京セラ美術館)
 第20回 芸美会展(福屋八丁堀本店/広島)
 New Horizons 2020(Var West Gallery/アメリカ)
 第46回 東京春季創画展(西武池袋本店/東京)
 第73回 山口県美術展覧会(山口県立美術館)
 特別Gセレクション 新春ニホンガ展覧会(ギャラリーG/広島)
2019
 第45回 三菱商事アート・ゲート・プログラム(MC FOREST/東京)
 広島市立大学選抜日本画展(安芸高田市立八千代の丘美術館/広島)
 View’s view 大庭孝文・川名晴郎・渡辺愛子(ギャラリーなつか/東京)
 第46回 創画展(東京都美術館・日図デザイン博物館/京都)
 アートフェアアジア福岡2019(ホテルオークラ福岡)
 第19回 芸美会展(福屋八丁堀本店/広島)
 第45回 東京春季創画展(西武池袋本店/東京)
 Audi 山口 ショールーム
 第72回 山口県美術展覧会(山口県立美術館)
 千里朝日阪急ビル アートプロムナード(千里朝日阪急ビル/大阪)

コレクション
THE OSAKA STATION HOTEL
広島信用金庫
霊友会
Imago Mundi project(GALLERIE DELLE PRIGIONI)
高山市
広島赤十字・原爆病院

受賞歴
2023
 第4回 広島文化新人賞
2019
 広島信用金庫日本画奨励賞
 第72回 山口県美術展覧会 - 優秀賞
2018
 第44回 東京春季創画展 - 春季展賞
2017
 第44回 創画展 - 奨励賞
 第17回 芸美会展 - 芸美会賞
2016
 新進芸術家育成交流作品展「FINE ART / UNIVERSITY SELECTION 2016-2017」 - 優秀作品賞
 呉医療センター・中国がんセンター芸術賞展 - 奨励賞
2015
 第26回 臥龍桜日本画大賞展 - 大賞
 広島市立大学芸術学部 卒業修了作品展 - 広島赤十字・原爆病院賞

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